１０年つづける

学生時代、
恩師のK先生は、
「なんでも１０年続けろ。
　しがみついていたら、何処かにつながっているから。」
とよく言われていた。
僕はパン屋になる前の１０年は、
環境問題を研究し続けた。
毎日”ホタルの光”の音楽がかかるまで図書館にこもって、
風呂の中にもノートを持って入って、
環境のことばかり考えていた。
自然を学びたくて山に登って、震えて眠り。
文化を知りたくて沖縄に住んで泡盛を飲んだ。
モンゴルでは枯れていく草原を馬で走った。
その間、何度も一文無しになったし、
毎日同じ服を着ていた。
ココアの粉で生きた時もあったし、
服を恵んでもらった事もあった。
でも今思ってもがむしゃらで真っすぐだった１０年間だった。
なぜこんな事を思い出したかというと、
今日、
「昔の新聞のコラムの連載、読んでたんです。とても感動して！」
というお客様がわざわざ遠くから来て下さったからです。
そしてじつは、
その新聞のコラムというのは、
パン屋になる前の１０年間の事を書いただけだったからです。
最後の５行ぐらいでパンのことに無理矢理書こじつけているだけだった、
というのは今だから言える本当のところなのです。
それでもお客様は感動してくださった。
１０年一心不乱にやってきたことは、
K先生の言ったとおり、
なんだかじっくり為になってたのですね。
さて、
パン屋になってもう６年経ちました。
１０年経ったらやめてもいいかな、と常に思っています。
とても自信過剰ですが、、
日本で自分以上に一生懸命パンを焼いている人はいない、
と僕は勝手に、でもけっこう本気で思っています。
それには理由があって、
まず僕には続ける事が目的ではないからです。
会社をアンデルセンみたいに大きくしたいとか、
家族でいい暮らしをしたいとか、
いつでも行列のできるパン屋にしたいとか、
思いたいのですが、
思おうとしても思えない。
かといって無欲ではないのです。
もしかしたら他人以上に欲深い。
僕は、
何世代も残るパンを焼きたい。
自分の人生の時間をせっかく使うなら、
文化になるような仕事がしたい。
だから、
フワフワのパンを作って、今の倍売れるとしても、
そんなことをする理由が自分の中には見つけられないのです。
僕はもっと欲深いのです。
パン屋を始めて１０年経った時、何がまっているかは解りませんが、
その時また良いコラムが書けるかは、
今一生懸命やっているかどうかにかかっております。
「石窯で焼く天然酵母パン/Boulangerie deRien」