(『中国新聞』2007年6月28日掲載)
「菓子パン朝食、日常化は危険、、肥満と糖尿病を誘発」
ちょうど一週間前。8月16日の中国新聞の記事だ。
これは、パン職人の悩みでもある。
「俺は毒まんじゅうを作ってるんだ。」
パンの修行をしていた8年前。
そう日記に殴り書きし、
やりきれなくて、トイレで泣いた。
当時、仕込み担当だった僕は、
生地に混ざりきらない程のバターやショートニング、
生クリームに卵、砂糖を入れていた。
誤解されているけれど、
これは、菓子パンだけの話ではない。
食パンにも、油脂、砂糖は沢山入る。
そして、その方が重要だ。
なぜならお客さんは、その事に気付いていないから。
それを毎日食べる。
ケーキを食事替わりに食べている様なもので、
続けていて、体にいいわけがない。
でも、お客はとぎれない。
僕も捏ね続ける。
食べてほしくない。
でも売れる。
ある時お客さんに、
「これうまいんだよ。食べて勉強してみて。」
と渡された食パンは、
油と砂糖と卵がたっぷり入った生地に、
さらにバターを巻き込んでいる、お菓子の味がする食パンだった。
「やわらかくて、甘くて、朝食に最高なんだ」
確かに、名前と形は食パンだけど。
材料や配合はお菓子だった。
油を入れたら柔らかくなる。
砂糖を入れたら甘くなる。
卵やクリームを入れたらコクが出る。
だけど、そんな中途半端なものを毎朝食べるのなら、カステラを食べたほうがマシだ。
僕は、半分ノイローゼになって、パン屋をやめた。
自分への罪悪感と、
お菓子と食事の区別も無くなったゴチャゴチャな食文化への失望。
僕が、再びパン屋になって、
粉と塩だけで、固いパンを焼きはじめた頃、
ほとんどのお客さんに、
「固い、味が無い」と、
苦情を言われた。
そして、お客さんは、お店に来なくなった。
1年目赤字、2年目赤字、
3年目にようやく軌道に乗った頃、気付くと、ほぼ100%、お客さんは入れ替わっていた。
自分の食べる物に、どんなものが入っているのか、きちんと考える人が増えている。
そういうお客さんが、パンを育ててくれた。
僕は、さらに菓子パンを無くす計画を建てている。
それで、お店がつぶれるのなら、
パン屋なんてやりません。
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