(『中国新聞』2007年7月26日掲載)
「良い食材をシンプルに食べる」
贅沢な食事とは、そういうことなのではないか?
活きの良い魚を刺身で、
プリプリ生ガキは殻から直に、
朝露ついてるアスパラなら茹でて、
シャキシャキ有機野菜はサラダで食べたい。
最高の材料でシンプルな料理って、おいしい。
僕にそれを徹底的に教えてくれたのは、
仕事で2年滞在したモンゴルだった。
その遊牧と草原の国の代表料理は、
「チャンスン、マハ=塩ゆで肉」で、
羊肉を塊のまま鍋にいれ、岩塩をナイフで削り入れて茹でる、
というシンプルな料理だが、
今でも”思い出しつば”が出てくる程うまい。
ゆであがった肉塊を、
グワッと手で掴み、ナイフでそいで食べていく。
脂で手をべたべたにしながらも、
もう夢中で食べてしまうのだ。
この美味しさをどう表現すれば良いのか、、、。
肉は草原の味なのだ。
厳しい自然環境のモンゴル高原でひたむきに頑張っている草は香り豊かだ。
ニラやローズマリ―の香りがする。
半野生の状態の羊が勝手に草原を走り回ってその草を食べる。
草原に降り注ぐ太陽や、草に集まる朝露や、雄大な大地の養分が、
羊の体に凝縮されているようだ。
その味は、
派手ではなく、ひかえめでいて、
しっかりとした力強さと個性をキラリと光らせている。
まるで、
スポーツに汗を流す運動部の少年が、
はにかみながら、少し伏し目がちでありながらも、
しっかりとした芯と個性をもっているのに、
似ていなくもない。
今でも忘れない経験がある。
それはモンゴルに別れを告げ、日本に帰国した時。
その足で、駅前のとある定食屋に入り、
”カツの煮込み定食”を食べようとすると、
オエッと嗚咽してしまい、食べられないのだ。
え、もしかして、、、
妊娠!?
ではもちろんなく、
砂糖と醤油の濃い味付けに体が拒否反応を示したのだった。
モンゴルでの生活が、
僕に、シンプルイズビューティフルを刷り込んでくれた。
だから僕は、
日本で育った小麦に塩だけを加えパンを焼く。
そのパンは、
はにかみながら、少し伏し目がちで、
流行とかに鈍感な味がしたなら成功なのだ。
あの草原では、今日も羊がメーメー鳴いている。
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