旅するパン屋⑦/ワハハと肉を食う

(『中国新聞』2007年6月28日掲載)

僕が石窯で焼くパンには、
砂糖も、油脂も入ってない。
国産の麦と自然塩、
そして天然酵母を捏ねて焼く。

だからか、
菜食主義や、今流行のマクロビオティックのお店、
とよく間違われる。

僕は、
それらには友好的な視線を送りながらも、、、

特別な日には、おもいっきり豪華に食べたい。

右手に骨付き肉。
左手には酒の入った杯、
というのもやってみたい。

誕生日には甘いケーキも食べる。

寒い日には屋台のラーメンもすする。

沖縄に行ったら、
ラフテーとかソーキとか、沖縄料理を食べたい。

北海道に行けば、
サケの腹からイクラをとって、ご飯にかけて、
シャクシャクっと食べたい。

年に一度は、毛ガニも食べたい!

インドに行ったら、
タンドール窯で焼いたチキンをつまみながら、
からうまーい、カレーを食べたい。

モンゴルに行ったら、
さばいたばかりの羊肉や内蔵を塩茹でして、
手を油まみれにさせて貪りたい。

そして、広島では、
やっぱり近所のお好み焼きやで、
「おばちゃん、ソバの肉玉でねっ!」
と粋に頼みたいのであります。

そうっ、
僕は、そんな美しいモザイク模様のような、
色とりどりの食文化を熱く熱く、愛してやまないのであります!

僕が大切にしているのは、
「ハレ」の食事(特別な時の食事)と、
「ケ」の食事(日常の食事)の区別。

我が愛する各国各地の食文化は、
長寿の沖縄であれ、遠くのアフリカであれ、
かならずこの2部構成となっているのであります。

身体だけでなく、
心も豊かに暮らすには、メリハリが必要なのですね。

祝い事や、たまの外食の時=「ハレ」の時ぐらいは、
「いや、もう食べられません」
というぐらい豪勢に食べないと、人生に色がない。

結婚披露宴で野菜だけの食事では、
ちょっとつまらない。

お祭りにふんどし姿の男が野菜だけでは、
ちょっと似合わない。

「酒だあ、肉もってこい!」

という威勢のよい日も必要なのである。

だからケーキ屋が、
良質なバターや油や砂糖をつかうのは、かまわない。
特別なお菓子なのだから。

でもパンは、
日常食=「ケ」の食事だから、
質素に、簡素に、控えめに。
だから、
糖類も油類もひかえる方向になっているわけです。