(『中国新聞』2013年5月9日掲載)
フランス北部に、
「メテイユ(méteil)」という、
ライ麦と小麦を半々ぐらいで焼いたパンがあります。
その言われを教えてもらいました。
昔々。
寒いとライ麦がよく育ち、暖かいと小麦がよく育っていた。
今年の気候は予想はできないし、ギャンブルもできないから、
その2種類の種をあらかじめ半々に混ぜて畑にまいてみた。
すると、寒い年にはライ麦が多く取れ、暖かい年には小麦がたくさん取れた。
こうすると、毎年だいたい同じ量取れる。
「だから安心だよね!」
という「保険的作戦」だったのです。
ごちゃ混ぜに生えているライ麦と小麦を一緒に収穫して、そのまま粉にして焼いてみたら、
こんな色でこんな味のパンになりましたよ、
というわけです。
だからこのパン、
後から、この配合がおいしいよね、とか言って、
グルメな気持ちで作ったものではありません。
その土地の気候に合ったパンに自然になっているのです。
当たり前ですね。
これがドイツに行くと、どうなるでしょう?
もっと寒いので、
ライ麦の比率がドバッと多くなるわけです。
では、逆にググッと南下して、イタリア、スペイン、ポルトガルに行きますと、
小麦がよく育つ。
ライ麦はもうあまり育たず、むしろ米が育つわけです。
だから、何が何でもパンだけ、というわけではなくなります。
イタリアのリゾット。スペインのパエリア。ポルトガルもアロスという雑炊があります。
米の料理も出てきたり、麦もパスタで食べたり。
ヨーロッパの南方面の話になると、
何だか日本人の胃袋にグッと訴えるものがありますよね。
日本と気候が似てくるからです。
日本にも、米や麺類があります。
だからこの
「うーん、強いて言えばパンかな」
ぐらいの、
少し責任感のないふらふらした感じのパンの立ち位置。
これが非常に参考になるわけです。
パンと気候についての触りのお話でした。
ここは重要なのでまた後からもビシビシ攻めます。
(写真:メティユ。サンピエール村にて。フーニル・ド・セードルのパン達。)
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ps
このサンピエール村は、ぶどう畑には寒すぎて、シードル用のリンゴが生えてるような地域。
この辺りでは、ライ麦が半分くらい入ったパンが食べられていたのかもしれません。
ちなみに、近所の民族博物館に行くと、
昔の農家の柱にはそば粉を引くミルがくっついていて、それで挽いて、ガレットで食べていたそう。
というのは余談ですが、
そういう気候風土の地域です。
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