受け入れるパン作り

焼き上がったパンがいつもと違った!

膨らみが悪く、昨日までのパンと全くちがうのだ!
パン職人の習性として、焦る。
粉に何か異常があるのかも?と、
粉屋さんに問い合わせる。

「今回のロットから、生産者変わってます。少し低アミロです。」

そこで、やっと冷静になった。
なんてことはない、
育てる人が変わったから、粉が変わるのは当然だ。

焼き上がったパンがイメージと違ったというだけだ。
俺はまだまだダメだ。 全然うけたもれてなかった。 。。涙

農家さんが、一生懸命育てる。
その年の気候、収穫のわずかなタイミングとかで、いろいろ変わるだろう。

でも、間違いないのは、
その農家さんにとって、考え悩んだ結果、
それが、その年のベストな麦だったという事だ。

僕の役割は、そのバトンを受けて、
自分のもてる技術で、その小麦がなるべきパンの姿にしてあげることだ。

お前は、パンからテロワールを感じるか!?

今回の粉は、低アミロ気味、ということだった。
どういうことかというと、
小麦は、収穫期に雨にあたったりすると、
タネに蓄えていたエネルギーを解放しはじめ、
発芽に向けて準備をはじめてしまう。
すると、
デンプンが分解されて、ネバネバが弱くなって、パンが膨らみにくくなる。

でも言い方を変えると、
これは、より熟している麦。

膨らみは小さくなるが、デンプンが分解されてて、
色づきが良かったり、香ばしさが増したりする。

若干、たんぱく質も分解されていて、旨みは強い。
そして、消化吸収の負担はより少ない。

小麦が自分の酵素で分解しかけているからだ。
発芽玄米みたいでもある。

小麦がもともと持つ酵素と、
乳酸菌由来の酵素は、分解するものが違うので、
二つが合わさることによって、より分解が進む。

見た目は、少し変わっても、
この麦からは、よりその年の気候や、畑の状況、作り手の思いが伝わる。
そう、
テロワールを感じるパンになるのだ!

受け入れるパン作り

きっと昔の人たちは、小麦を選んでいなかった。
今みたいに農業が科学的に解明されていなかった時代、
毎年出来上がる麦は、今よりもっと変化に富んでいただろう。

野球に例えると、昔の方が、
ストレートだけでなく、いろんな変化球も打ち返して、
パンにしないといけなかったのだ。

だから、どんな小麦もどんと来い!
という、うけいれるパン作りは、世界中で、行われていたはずだ。

近年のパン作りは、
グルテンの強い粉が前提で、
粉を選ぶことも自由だからこそ、可能であっただけ。

今から来る、小麦を自由に選べない時代では、
昔ながらのパン作りが、むしろ新しくなる予感がします。

ということで、
先週から、パンは、膨らみは控えめだけど、焼き色はしっかり、
香りも豊かで、口溶けほろり、になっております。