ツバメのピヨ

パン屋の屋上でツバメを飼っていた。
桜は満開。
おりしも西から大きな低気圧が近づいて来て、
今にも嵐が来そうな風が吹く。
「あああ、これで桜も散っちゃうなあ」
という日に、
空からピヨは落ちてきた。
ハーブを植えようと買っておいた、
木のプランターの中で発見された。
私たちが勝手に子供だと思っていたピヨは、
動物病院で、実は立派な大人のツバメだと判明した。
エサも水も摂ろうとしない。
口をかたくなに開けない。
プライドを持っている鳥だと思った。
「こう口を開けて、虫をあげてみて。
 水も一滴づつ。気管にゴボゴボ入れないように。
 もしかしたら飛び立てるようになるかも。
 ダメだったら飼ってあげて。
 病院で預かれるけれど、家の方が面倒を見てあげれるから。
 やってみる?」
 と女の先生は言った。
 先生にエサと水のやり方を教わると、
 なんだか面倒を見たくなった。
「野生動物を保護することは行けないこと?」
 という疑問があったけれど、
 それが消えたのが一番大きいかもしれない。
 ピヨは日に日に元気になった。
 エサをバクバク50匹以上も食べだし、
 水をむさぼるように飲み、
 低空飛行できるまでになった。
 
 でもどうも片方の翼を痛めているようjで、
 そこが治りそうにないように見えた。
 店の屋上は、1、5m程のコンクリートの塀で囲まれていて、
 猫も来なくて、
 ピヨはこの絶好の放し飼いスポットで、のんびりしていた。
 ピヨがいる生活がパン屋のスタッフみんなにとって、
 なんだか日常のことになって来たある日。
 ピヨが突然いなくなった。
 いつもいた、積んである薪の上にもいないし、
 いつか入り込んでいた、物干し台の下にもいない。
「きっと飛んで行ったんだ。
 それにしてもちゃんと自分でエサ取れてるかなあ。
 片方の羽は大丈夫かなあ。
 カップルになれただろうかあ。
 お盆ぐらいは子供を連れて帰ってきなさい。」

「石窯パンのドリアン」
「焚き火を囲んで眠る学校」