パンの穴から世界を見た⑤/錬金術なんてない

(『中国新聞』2013年5月30日掲載)

(巨大な薪窯でパンを焼くセルジュさん㊧フランスのサン・ロ)

フランス北西部のブルターニュ地方、
サン・ロにあるセルジュさんのパン窯を訪ねた。

工房に恐る恐る入り
「作業を見せてもらってもいいですか」
と尋ねると、

「君、パン屋だろ。歓迎するよ。見てってよ!」
と大歓迎。

見学オッケーの職人と盗まれるからダメだという人がいるけれど、
それは伝えたいものを持っているか、いないかの違いだ。

この人は何かを持っているぞ―。
期待が膨らむ。

手伝いながら見せてもらったのだが、
僕はあぜんとしてしまった。

セルジュさんのパン作りは一見、
すごく手を抜いているように見えたから。

帽子なんてかぶらない。
発酵も適当で、
生地をぐちゃっと丸めるだけ。
窯入れの蒸気は

「見た目はよくなるけど、味は変わんないから」
と入れない。

焼き上がって、
ざーっと窯から引きずり出したパンは、
膨れてなかったり、横が弾けていたり。
裏に灰や炭が付いていても無視。
落ちて割れてもオッケー。

その適当さ加減に、
日本のパン屋なら誰でもビビるだろう。
でも、
見る角度を変えるとすさまじく丁寧なのだ。

粉は全て有機栽培。
一部は自家栽培。
工房の奥にある大きな石臼で、ゴーッと製粉している。

巨大な薪窯も木の枝の束を燃やす伝統的なタイプ。

そしてそのパンを安く売っている。

徹底的に見た目無視。
これでもかというほど中身しか見ていない。

しかし実際、
そのパンが、もう記憶にこびりつくほどおいしいのだ。

そんなパンたちが大量に得意先に運ばれて行く。
こういうパンを選ぶフランス人の男前なセンスもなんともかっこいい。

錬金術はこの世に存在しない。
でもいつも、世間はそれを求める。

腕のいい職人ならいろんな技術や魔法を駆使し、
素材以上のうまいパンを作ってくれるだろうと。

セルジュさんからのメッセージは、
錬金術とは真逆で強烈だ。

良い材料であれば、
職人なんぞが手を加えなくてもうまいんだ!

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ps
鳥取のお菓子の名店トゥージュールの稲木さんに紹介してもらって、
ノルマンディーに行くチャンスができました。
セルジュさんのブリオッシュは次の日カチカチになるけど、
それはそれは美味しかったです。

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