パンの穴から世界を見た ① 

パンの穴から世界を見た  (『中国新聞』2013年5月2日掲載)

唐突ですが、子どもの頃にやった遊びです。

グラウンドの向こう側にいるネコが、
小学校の校舎の3階の窓から見えるか。

五円玉を取り出して、その穴をのぞいてみる。
小さな穴から見える限られた視界では、
科学的なのか、おまじない的なのか、
遠くのネコがはっきり見えた。

伸びをしたり、肉球をペロペロしてるとこまで分かり、
「すげー、すげー!」
とワイワイやったものです。

そんな私も、もう大人。

広島市内で営むパン屋を休業し、昨年9月からフランスへ。
ヨーロッパの国々を歩いています。

ここでの印象は

「どうやらパン作りの技術なんて大したことはない」
です。

誤解しないでください。
これは素晴らしいことなのです!

なぜなら、
どの国も、そこで普通に育つ麦を、普通にこねて、
適当に膨らませて焼いたらできてしまうパンを、
何百年、何千年と何世代にもわたり、
当たり前のように食べているからです。

だから当然のように食事にも合う、
酒も進む、歌まで出る。

米を炊いて食べるように、
気候や文化にピタッとフィットしていれば、
そもそも特別な技術なんて必要ないのです。

だから、
はるばるヨーロッパまで来た私、
技術なんて学んでいる暇はないのです。

日本の気候風土に合っていて、
普通に育つ麦で、普通に焼くことができ、
固有の食文化にもマッチして、
栄養的にも味覚的にも満たされて、
百年後、
私たちのひ孫の世代までもが当たり前のように食べていける。

そんな
「普段着のパン」とは、
どんなパンなのだろう。

それを調査するのが今回の私のミッションなのです。

連載では、
ミッション達成のために、パンを通していろんなものを見ていきます。

歴史に、地理に、政治に文化、
もしかしたら最新恋愛事情にまで及ぶかもしれません。

そう、
パンに開けた穴からいろんなものをのぞいていくわけです。

さて、
小学生の時に五円玉の穴からネコをのぞいていたように、
ハッキリ、クッキリ見えるでしょうか。

(↑写真:ナント大学に住んでるネコさん。哲学専攻か?)
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たむら・ようし 広島市南区生まれ。
北海道や沖縄県で登山ガイド・環境教育の修行後、モンゴルに2年間滞在し、エコツアーを企画。
2004年からパン屋「ドリアン」(南区堀越)を経営。
12年4月末から堀越本店、八丁堀店とも休業している。
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